購買心理テクニック

今回は前回に引き続き、セールスや広告で使える購買心理トリガーをご紹介いたします。

巻き込み・オーナーシップ・保有効果

巻き込みとは、お客さんをこちらの販売プロセスに引き込むという心理テクニックです。これは簡単にいうと、お客さんをこちらの販売プロセスに参加させ、知らないうちにあとに引けなくさせる手法です。ポイントはお客さんに積極的な行動や想像をしてもらうという点です。お客さんに積極的な行動や想像をしてもらうために使うツールをインボルブメント・デバイスといいます。
この手法は対面販売だけでなく、通信販売やインターネット販売でも使うことができます。

対面販売での使い方としてわかりやすいのが、自動車の販売における試乗です。
お客さんは試乗という積極的な行動をすることによって購買意欲が高まります。この試乗ではお客さんの心理作用として複数のものがあります。

1つは、前にも述べた返報性の心理作用です。試乗させてもらったのだから、やっぱり購入しませんとは少し言いづらいという心理作用です。

2つめは、試乗することでその車の所有者になった気分を味わうという心理作用です。つまり、お客さんはその車をもう買ったような気分になり、その車で家族や友人と出かけている光景を想像するのです。これは、オーナーシップという心理作用で、その商品やサービスをお客さんが購入後に使っている光景を想像させることがポイントです。

そしてさらに、お客さんには購入した気分の延長としてその車を手放したくないというの3つめの心理作用がはたらきます。これは、保有効果といって、人は一度所有した物に対して高い価値や愛着を感じて、それを手放すことに抵抗を感じるという心理作用です。この保有効果は本来、長期間所有した物に対して強く作用する心理現象ですが、試乗といった短期間の所有や体験などによっても引き起こされます。

このように対面販売においては、商品やサービスをお客さんに実際に使っていただくことによって、購買意欲を高めることができます。

通信販売やインターネット販売でも試供品の提供によってこれらの心理テクニックを使うことはできます。しかし、試供品の提供にはコストがかかります。そこで、お客さんにバーチャルで商品やサービスを使っていただき、これらの心理作用を生じさせるのです。

つまり広告やコピーによって、お客さんが実際にその商品やサービスを使っている光景を想像させるのです。お客さんの頭の中にビジュアル・イメージを生じさせるのです。

たとえば、次のAとBの広告を読んでみて下さい。あなたはどちらの広告の方がより買いたくなりますか?もちろんどちらも売っている商品はまったく同じ物です。

A広告

『最高級松坂牛ステーキはいかがですか?

通常200グラム7,000円のところ、今だけ30%オフの200グラム4,900円!

希少なA5ランクの松坂牛で、最高の肉質です。

やわらかく、甘味があり、ジューシーです!』

 

B広告

『広大な牧草地で太陽の光をたっぷり浴びてのびのびと育った最高級松坂牛のステーキをお腹 いっぱい堪能しませんか?

桜色の赤身に透き通るような真っ白の脂身が溶け込む最高級の霜降り肉。

熱い鉄板の上に乗せるとジューッという美味しそうな音が・・・表面を軽く炙って肉のうま 味をギュッと閉じ込める。軽く焦げ目のついた大きなステーキが焼き上がる。ナイフを入れ ると何の抵抗もなくスゥーッと切れてジューシーな肉汁があふれ出す。一口食べると肉の甘 味とうま味が口の中いっぱいに広がり、すぐに溶けてなくなる。家族みんなが自然と笑顔に なり、なんともいえない幸せな気分になる。

A5ランクの最高級松坂牛ステーキが通常200グラム7,000円のところ、今だけ30%オフの200 グラム4,900円!』

どうですか?おそらくほとんどの方がB広告の方が買いたくなるのではないでしょうか?
まさにビジュアル・イメージによって実際にお客さんがステーキを食べている様子を想像させることによって、購買意欲を高めることができるのです。しかもコストをかけずにです。

ストーリー・テリング

ストーリー・テリングとは、伝えたい内容を物語として表現することで受け手の人に対して強く印象づけることができるという心理テクニックです。
人は物語というものに引き込まれやすく、また物語で聞いた内容は記憶にも残りやすいのです。人は幼いころから昔話や物語などのストーリーで現実世界の様々なことを学ぶという経験から生じる心理作用だといわれています。

販売プロセスにおいてお客さんに人間味あるストーリーを話すことによって、お客さんの心を引き寄せます。お客さんとつながり、お客さんを喜ばせることができるのです。

ちなみに私は、いつも外出するときは勉強のためにいろいろな看板や広告を見ながら歩いていいます。そして様々な広告や看板を見るたびに、その商品についてストーリーを付けるとしたらどんなストーリーならお客さんは引き寄せられるかな?ということを考えます。

先日も、いつものように広告や看板を見つつそんなことを考えながら街を歩いていました。すると、とんでもない看板を発見しました。その看板は私の進む方向とは違うところにあったのですが、私は思わず方向転換して、その看板の方へ駆け寄って行きました。それは、いかにも古くから営業していそうなクリーニング店の看板だったのですが、・・・ってな具合です。
クリーニング店の看板になんと書かれてあったのか、気になりました?

これがストーリーテリングです。
ストーリーテリングを使うときのポイントはひとつです。まず、お客さんがあなたの商品やサービスを利用しているシーンを思い浮かべて下さい。そのシーンの中でお客さんがどんなことに関心を持っているだろうか、どんなことを感じるだろうかと考え、それをストーリーにするのです。

たとえば、フィットネスクラブだったらこんな感じです。

 お客さんがあなたのフィットネスクラブへ来て、ランニングマシーンの上で走っています。
ランニングマシーンの前には小さめのパーソナルテレビが設置されていて、テレビを視聴しながらランニングすることができるのです。

汗をかきながら、ふと計測器に表示される消費カロリーの数字を見てみると、どんどん数字は上がっています。カロリーがどんどん消費されているのでお客さんはウキウキしながらランニングしています。

その様子を若くてイケメンのトレーナーがやさしく見守ってくれています。 ランニングが終わると、休憩スペースで気の合った仲間と楽しくおしゃべりができます。
このフィットネスクラブに入会すれば、我慢してあれこれ食事制限をすることなく、楽しみながら効率よくいきいきとダイエットができるのです。

このシーンの中でお客さんがピンとくるようなことをストーリーにしてみて下さい。

権威性への服従

権威性への服従とは、信頼できそうな人が発する言葉を信じようとする人間の心理をいいます。例えば、白衣を着て聴診器を首からぶら下げ、白髪交じりの眼鏡をかけたいかにも知識のありそうな男性から説明を受けると本当だと信じてしまいますよね?

このように、人はその道の専門家であったり、知的だったり、信頼できる人物であったりする人が宣伝すると、その宣伝を事実として受け入れてしまうのです。消費者は権威性のある人から商品やサービスを購入したいと思っているのです。

あなたの商品やサービスを欲しがるお客さんが信頼する権威はどんなものですか?権威性を表すものは複数考えられます。

①肩書
あなたの商品やサービスについてあなたに何らかの肩書があれば、それは信頼に値する権威性です。あなたの肩書を堂々とお客さんに伝えてセールスして下さい。
年齢や経験・実績がお客さんにとって大きな判断材料となる場合はこれらも権威といえます。

③知識
商品やサービス、その業界のことなどをよく知っているな、とお客さんに思ってもらえれば、お客さんはあなたに対して権威性を感じるでしょう。

知識の習得は自分で権威性を高めることができる方法なので今日からでも実践できますよね?

④見た目・身なり
権威は見た目でも表すことができます。警察官の制服や、裁判官の法服などがいい例でしょう。あなたも身なりをきちんと整えてセールスすることでお客さんに信じてもらいやすくなるのです。

権威性についてもうひとつ重要なことがあります。
それは、このような権威性は何もあなただけが表さなければならないものではないということです。

あなた以外の権威性のある人や団体にあなたの商品やサービスを推薦してもらうことでもお客さんに信頼してもらいやすくなります。
あなたの商品やサービスについて権威性のある(あくまでお客さんにとって権威性があると感じとれる人でなければなりません)のはどんな人・団体ですか?
セールスにおいてその人や団体から推薦を受けることができますか?

それができれば、お客さんは自信をもってあなたの商品やサービスを購入することができます。

コントラスト効果とアンカリング効果

コントラスト効果は、対比効果ともいいます。これは近接して複数のものを見たり聞いたりしたときに、その差を実際の差よりも大きく感じるという心理効果をいいます。

たとえば、1本10,000円のボールペンと1本1,000円のボールペンが文具屋に並んでいたとしたら、1,000円のボールペンがすごく安く感じるというような作用です。これが1本1,000円のボールペンだけが置いてあったら、そこまで安いとは感じないですよね?これがコントラスト効果です。店舗販売においてはよく使われるテクニックです。

アンカリング効果とは、複数のものを順番に見たり聞いたりしたときに、一番最初のものを基準として捉えるという心理作用をいいます。船のアンカー(いかり)からこの名が付けられています。
商品やサービスを販売する際によくあるのが、最初に高い金額を提示しておいて、「〇〇〇なので本来ならこの金額なんです。しかし今回は〇〇〇という理由でこの金額です」と言ってそれより安い金額を提示する手法です。これによりお客さんは実際よりも安く購入できると感じるのです。

ただし、この手法で注意しなければならないのは、〇〇〇なのでという部分の両方の理由付けがお客さんに納得してもらえるようなものでなければなりません。

コントラスト効果とアンカリング効果は併用して使うことが多いです。

これらのテクニックを使う上でのポイントは、値段の高いものと安いものの根拠をきちんと示すということです。なぜ値段が高いのか、なぜ値段が安いのかをお客さんのわかるように説明するのです。その上でお客さんに値段の安い方がお得だと感じてもらうようにすることが必要です。

極端の回避性

コントラスト効果やアンカリング効果と似たような使い方をする心理テクニックとして、商品やサービスの価格を松竹梅の3段階に設定する手法があります。
これは極端の回避性という心理効果を利用したものです。極端の回避性とは、複数のものの中からどれか一つを選ぶ場面において、それぞれのものの特性の違いを判断できない場合、人は極端を回避して中間のものを選ぶ傾向があるという心理効果です。

あなたは旅館の予約や高級料理店などで、松コース、竹コース、梅コースとあるとどのコースを選びますか?
このような場合、竹コースを選ぶ人が一番多いと言われています。
ということは、最も購入して欲しい商品やサービスを竹コースとして設定しておくと売りやすくなるということです。

そして、この手法のもっと優れている点は、このメニューを見たお客さんの何%かは必ず松コースを選ぶということです。つまり、竹コースを多く売りながら、松コースも売ることでお客さんの購入単価を上げることができるのです。したがって、この手法はあなたのビジネスにおいてすぐに売上をアップさせたいときにも便利な手法といえます。

ただし、注意しなければならないのは、選択肢を増やしすぎないということです。3段階以上の選択肢をを設定してしまうと、購入率はグンと落ち、どれも買ってもらえない可能性が高まります(選択回避の法則)。
つまり、人は複数のなかから何かを選ぶ場面において、あまりにその選択肢が多いと、どれも選びたくなくなるという心理作用がはたらくのです。
したがって、やはり3つくらいの選択肢が適当でしょう。

 

まとめ

今回はセールスや広告コピーを書く上で使える心理テクニックを5つご紹介いたしました。

普段の営業活動にお役立てください。